語源 英語 linguistics(言語学)の語源は linguistique(フランス語)、さらにさかのぼるとlingua(ラテン語、「舌、言葉」の意)であり、linguisticsという語は1850年代から使われ始めた。 目的 現代言語学の目的は、ヒトの言語を客観的に記述・説明することである。「客観的に」とは、現に存在する言語の持つ法則や性質を言語データの観察を通して記述・説明するということであり、「記述(description)」とは、言語現象の一般化を行って規則や制約を明らかにすることであり、「説明(explanation)」とは、その規則・制約がなぜ発生するのかという動機づけを明らかにすることである。 現代言語学は言語の優劣には言及しない。むしろ、言語学においては、あらゆる言語に優劣が存在しないことが前提となっている。そのため、世界の言語はすべて同等に扱われる。かつては言語の史的変化を言語の進化ととらえ、社会・文明の成熟度と言語体系の複雑さを相関させるような視点が一部存在した。しかしその後、いかなる言語も一定程度の複雑さを有していることが明らかとなり、そうした見解は現在否定されている。すなわち、幼稚な言語、高度な言語は存在せず、すべての言語はそれぞれの言語社会と密接に関連しながら、それぞれのコミュニティに適応して用いられている、というのが現在の言語学の見解である。 言語の定義と特徴 言語学ではヒトが話す言語(ことば)を取り扱う。そこで、「ヒトが話す言語」とは何かを明確にする必要があるが、学者らによる「言語」の定義の問題は未だに決着していない。 以下に主要と思われる言語の特徴を記す。 命名の恣意性 ソシュールは、「能記」(signifiant)と「所記」(signifié)という2つの概念(シニフィアンとシニフィエ)を用いて、言語記号の音声・形態とその意味との間には必然的な関係性はないという言語記号の恣意性を説いた。 これとはほぼ反対の立場として音象徴(sound symbolism)という見解がある。これは、音素そのものに何らかの意味や感覚、印象といったものがあり、言語記号はその組み合わせによって合理的に作られているとするものである。しかし、実際にはどの言語にも普遍的な音象徴というものは存在しないため、現在そのような立場の言語研究はあまり行われていない。 二重性 アンドレ・マルティネは言語が単なる音声の羅列ではなく、二重構造を有していることを指摘した。すなわち、文を最小単位に分割しようとした場合、まずは意味を持つ最小単位である形態素(morphèmes)のレベルに分割される。そして、形態素はさらに音素(phonèmes)に分割される。例えば、日本語の [ame](雨、飴)という語は語としてはこれ以上分解できないが、音素としては /a/、/m/、/e/ の三つに分解される。言語の持つこのような二重構造は二重分節(double articulation)と呼ばれる。動物の発する声にはこうした性質が見られないため、二重分節はヒトの言語を特徴づける性質とされる。 転位性 ヒトの言語は過去に起こった事実や未来のことを表現することも可能である。文字の体系を持っていれば、文字に書き留めることによって、後世に伝えることも可能になる。しかし、動物の場合、餌のありかや敵の急襲を知らせるなど現在のことしか伝達できない。 創造性 ヒトの言語の場合、あらゆる情報を伝えることができる。例えば、初めて会った人から、まだ行ったことのない外国の話を聞かされても理解することができる。しかし、動物の言語の場合、空腹感や幸福感など決まりきったことしか伝えられない。言葉を無限に創造できるのは、ヒトの言語における最大の特徴である。 構造依存性 言語の規則には、例えば「前から3番目の語」というような表層の順序に言及するようなものは存在しない。言語の規則はむしろ、表層にあらわれない範疇、階層、構成素などの構造に言及する。これを構造依存性という。ノーム・チョムスキーはgenerative capacityという概念により、「(ある言語の)文法は、その言語の文ら(「表層」)をweakly generateし、それら文らのstructural descriptors(「深層」)をstrongly generateする」(ここで「文ら」としているのは、原文sentencesの複数形に意味があるため)と述べた。